馬券王矢口 競馬を始める
競馬を始めたのは1999年1月、23歳の時だった。競馬に興味があった訳ではなく、親友の強引な誘いにより嫌々競馬場に足を運んだのを覚えている。馬券王を名乗る俺の競馬初体験の話。
パチンコくらいしかやった事がなかった俺には何もかもが初めてで、馬券種別の単勝、複勝、枠連、馬連も分からない正真正銘の初心者だった。競馬デビュー前夜、親友から競馬新聞の大まかな見方を教えてもらい、各レースで1着2着になる組み合わせを考えてこいと言われた。
嫌々とは言え競馬場に行けば金を賭けるのだから、それなりに準備をして行かなければ自分の大事な金を失う事になる。競馬で1着2着になるのはどのような組み合わせなのかデビュー戦で見極めようと、3つの条件に絞って優劣の印を付けてみた。
JRAには競馬場が10ヶ所あるが、それぞれに特徴があるのだろうし、馬にもそのコースそのコースに得手不得手があるだろうと。走る距離も短距離から長距離まである、競走馬にも短距離巧者、長距離巧者がいるのだろうと。競馬新聞の馬柱には走破時計が大きく載っている、競走なのだからタイムは重要に決まっている。
競馬場適性
距離適性
最高タイム
とりあえずこの3つのファクターで検証してみると決めた。
当時、開催全場全レースの馬券を購入する事は出来ず、俺が行った中山競馬場では中山1~12レースと京都9~11レースの計15レースの馬券を発売していた。各レースにおいて、
当該競馬場連対率 上位3頭
当該距離連対率 上位3頭
最高タイム 上位3頭
それぞれに◎○▲の印を付けて馬連3頭BOX、3つのファクターだから馬連9点買い。
すると午前中5レースを終えて4レース的中、1レース不的中という結果だった。あるレースは競馬場連対率上位3頭内、あるレースは距離連対率上位3頭内、あるレースは最高タイム上位3頭内、とにかく5レース中4レースは3つのファクター何れかの上位3頭内で馬連決着した。
面白かった。競馬は簡単だと思ったし、みんなこんな簡単な当て方がある事に気付いていないのかと思った。俺の親友はガキの頃から親父に連れられ競馬をやってきて競馬歴は20年に近かった。隣にいるこの男に的中率、回収率共に上回った。親友は俺の事を褒めていたのだが、いくら何でも褒め過ぎじゃねーかってくらい褒めちぎっていた。後から思えばギャンブル大好き人間のこの男は、俺に競馬を教えて毎週末俺を連れて競馬に行こうと画策し、俺が競馬にハマるよう褒めまくっていたのだ。まんまとハメられた。
午後のレースでもそこそこ的中した。最終的に収支はマイナスだったと思うが、初体験としてはしっかりとした手応えをつかんだ競馬デビュー戦だった。競馬新聞には、競馬場で決着、距離で決着、時計で決着、このように3つのファクターの内どのファクターで的中したのかを記しておいたので帰宅後自分なりにじっくり復習した。
競馬場適性上位で決着したレース、距離適性上位で決着したレース、最高タイム上位で決着したレース、それぞれにどんな関連性、規則性があるのか。法則を見出したかった。芝のレース?ダート戦?短距離戦?長距離戦?障害レース?古馬混合戦?未勝利戦?重賞レース?色々と考えてみたが、所詮ばらばらで15レースぽっちのサンプルでは、これといった関連性、規則性は見出せなかった。
それからも同じ方法論、3つのファクター連対率上位3頭馬連BOXで馬券を買い続けたのだが、馬連9点買いをネックに感じるようになった。3つのファクター上位がカブる事があり、そういう場合はダブった買い目を購入しなかったので、全部が全部9点買いではなく7点や6点という場合もあった。ただ親友は平均して3点程度、時には2点、1点と少点数買いしていたから、俺は同じレースで的中させても回収率で上回れない事にイラついていた。
BOX馬券をやめて流し馬券を試してみた。3つのファクターそれぞれ独立した上位3頭BOXを買っていたのを、1位5点、2位4点、3位3点と印に点数を付け、いわば矢口指数を作った。指数最上位馬を軸に印各馬への流し馬券。BOXから流しへの移行、いい時もあれば悪い時もありで、俺は以前の方法によるBOX馬券と矢口指数の流し馬券の間でもがき苦しみ、ビギナーズラックからスランプへと突入した。
簡単だと思えた競馬が急に難しく思えてきてもう競馬自体やめようと思ったのだが、始めて1ヶ月程度でやめるのはまだ早いと思いとどまりもう少し試行錯誤してみる事にした。そして俺のその後を左右する事になる、1999年2月14日(日)聖ヴァレンタインデーを迎える。