馬券王矢口 プロ予想家になる
競馬研究にPC&競馬予想支援ソフトを導入した事によって、様々で膨大な量のサンプルを多角的に検証する事が出来るようになり、俺は自分が欲している物を手にする為に向かうべき方向が見えてきた。即ち、馬券的中における規則性・法則の発見に行き着く道だ。方向性が分かってからは、ひたすら計算し続ければよかった。そしてついに俺は、競馬予想虎の巻<JRA攻略 最強のデータベース>を完成させた。俺が競馬を始めてから1年の月日を要し、もがき苦しみやっとの思いで完成させた、俺の競馬予想理論の集大成だった。競馬予想支援ソフトを使用しておいて何が俺の競馬予想理論の集大成だと思うかも知れないが、競馬予想支援ソフトは道具に過ぎず俺の競馬予想理論がコレでもかというくらいに詰まったソレは、正に俺の俺による俺の為の競馬予想虎の巻だった。神が6日間かけて天地万物を創造し7日目に休んだように、俺は1年間かけて<JRA攻略 最強のデータベース>を作り、ほんの少しの間休んだ。
HPを作って無料予想公開及び有料予想配信をする事は、競馬予想虎の巻を作ってからほんの少し休んだ間に決めていた。俺という競馬予想の天才の存在を世間に知らしめる事、世に蔓延る低レベルな競馬予想家を叩き潰す事、世の中の競馬予想が下手な事この上ない連中に救いの手を差し伸べる事、これらの事が競馬予想HP開設に至った主な理由だ。
競馬予想HP開設を決めてHP作成ソフトを購入したのだが、もう早く早くHPを公開したいという欲求に駆られ、仕事から帰宅してそれこそ寝る間も惜しんでHP作成に没頭した。結果、とても見栄えがいいとは言えない御粗末なHPが1週間で完成した。まずもって俺は機械に滅法弱く、PCと言ったって競馬予想にしか使用した事がなかったのだから、1週間で完成させたHPがまともである筈がない。俺1人で予想公開してもよかったのだが、いまいち色がないと思い、かねてから懇意にしていた野口という男と尾崎という男と共に、馬券生活者軍団<IK>を主催し、晴れて「馬券生活者軍団<IK>最強の競馬予想」HPが誕生・始動した。それが2000年2月の事である。
”馬券王”矢口、”キラリン”野口、”POG”尾崎の3名が、それぞれ”馬券王”矢口<最強の的中予想>厳選レース1~3、”キラリン”野口<最強の大穴予想>大穴レース1~3、”POG”尾崎<最強の思い入れ予想>推奨レース1~3を無料公開した。それとは別に<最強のIK会員専用予想>という、”馬券王”矢口による有料予想配信を行い、無料予想&有料予想共に一切嘘のない予想結果報告を行った。晴れてプロ競馬予想家デビューである。
だが問題が生じた。HPへのアクセスが全然伸びなかったのだ。いくら俺が、俺という競馬予想の天才の存在を世間に知らしめる、世に蔓延る低レベルな競馬予想家を叩き潰す、世の中の競馬予想が下手な事この上ない連中に救いの手を差し伸べると息巻いたところで、多くの人間にHPの存在を知らせなければ全てが絵に描いた餅で終わる。
言うまでもなく俺は自分の予想に自信を持っていたし、良質な競馬予想&嘘のない結果報告を実践していた。先ずは無料予想を見ろ、最初は絶対に買うな、当たるのか儲かるのかその目で確かめろ。俺が発信してる予想は無料予想のみで必ず儲かる、だからもう他のインチキ有料予想なんかに金を払う必要はない。<最強のIK会員専用予想>を求めたとしても先ずは無料予想で儲かってからその金で入会すればいい、無料予想で儲けさせられない奴が有料予想で儲けさせられる訳がない。だから有料予想にかかる金は無料予想で稼げ、俺は他のインチキ予想提供会社のように結果報告で嘘をつく事は絶対にない。俺は他の有料予想を配信している予想家のように入会を迫る事も絶対にしない。逆に、無料予想を見ろ、有料予想を欲しがる奴なんぞ強欲な奴だと言い続けている。俺が頭を下げてお願いですから有料会員になって下さいなんて言う事は死んでもない。有料会員になりたい奴がいるのならお願いですから有料予想を配信して下さいと俺に懇願するのが筋だ。これらは俺が口が酸っぱくなるほど言ってきた偽りのない言葉。
俺がHPでやっている事は絶対に間違えていないという自負があった。なぜ有料予想配信対象の<IK>会員を100人限定にしたのかと言えば、神の啓示を受けた俺が、神の裁きの前に”馬券王”矢口版ノアの箱舟を作った訳ではなく、同じ買い目を多数の人間が買えばチリも積もれば山となり当然オッズは下がる訳で、そういった現象は<IK>会員に不利益しか生まないと思ったからだ。100人限定の<IK>会員はリピーターばかりだった。そしてHPアクセスを見てもやはり新規アクセスは殆ど無く、知る人ぞ知るマニアックなHPという存在になりつつあった。そこで俺はアグレッシヴに動き出す。
俺の競馬予想は超優良だ。俺がやってる事は間違いじゃない。俺は世間の競馬負け組連中の為に立ち上がった救世主だ。競馬関連の新聞、雑誌、TVに手当たり次第メールした。「アンタ等がやってる事は低レベルだ。”馬券王”矢口はハイレベルな予想家だ。それを確かめる為に馬券生活者軍団<IK>最強の競馬予想HPを見ろ。嘘じゃないと分かるはずだ。そして俺の凄さが分かったら俺を呼べ。いつでもアンタ等お抱えの予想家と勝負してやるよ!」と、今にして思えばこんなメールをいちいち相手にしてくれる筈もなかったのだが。俺は当時『競馬最強の法則』という月刊誌を購読していた。掲載されている馬券術だの必勝法だのの類はくだらないから読まなかったが、JRAに対し批判的な文面や他の競馬雑誌にない切り口の文章があったから俺は好んで読んでいた。そして、レベルの高いレースなる方法論を持つ妻子を養う馬券生活者木下健氏を知る。相手は誰でもよかった。ただ信念を持って競馬予想している人間と勝負してやろうと思った。当時の『競馬最強の法則』に数ページ連載を持っていて他の雑誌にも登場していた、妻子を養う馬券生活者木下健氏に予想勝負を挑んだ。
無差別テロ的脅迫文の送付は効き目が無いと前回嫌というほど分かったから、割と紳士的に挑戦状を送り付けた。「木下健殿、俺は馬券生活者軍団<IK>代表の”馬券王”矢口という者です。貴殿の事は雑誌『競馬最強の法則』で知りました。アナログとデジタルの融合競馬予想、いつも結果だけ拝見しております。この度メールさせて頂いたのは貴殿のアナログ・デジタル融合予想と、俺のデジタル予想、果たしてどちらが優秀なのか是非とも予想勝負をして頂きたいと思ったからです。無名の俺との予想勝負、貴殿にとってはハイリスクノーリターンと思われるかも知れませんが。俺は自らの競馬予想虎の巻<JRA攻略 最強のデータベース>に絶大なる自信を持っております。新興勢力かも知れませんが、自分を本物の競馬予想家だと思っております。貴殿は単勝・複勝をよく購入されているようで、俺は馬連専門なのですが、馬券種別についてはお任せします。つきましては、予想勝負日時、勝負レース等、相談したいので返事を頂けたらと思います。」詳しくは忘れたが、大よそこんなような内容だった。そして木下氏から「予想勝負やりましょう」との返答があった。
以前のHPが消滅している為に詳細を記す事が出来ず歯痒いのだが、勝負は2000年5月7日(日)に決まり、メール交換による協議で決めた3鞍で予想勝負する事になった。実際の馬券購入云々ではなく、各レース単勝1点何万円・馬連6点以内何万円の仮想資金での予想勝負になった。第1予想勝負レースと第2予想勝負レースは忘れたが、どちらのレースも木下氏と俺が外した事に間違いはない。そして予想勝負最終レース、東京競馬11R第5回NHKマイルカップ(GⅠ)芝1600m、ここで勝負がついた。木下氏は外し、俺は岡部騎乗2番人気12番イーグルカフェの単勝430円を的中させた。勝負後、互いにレベルの低い戦いだったと傷を舐め合ったのだが、兎にも角にも俺は木下氏との巌流島決戦、辛勝とは言え確実に勝利した。とりあえず、その詳細をHPで報告したのだが、人知れず行われた予想勝負なんぞで新規アクセスが増える訳もなく、俺は標的を『競馬最強の法則』に定めた。
『競馬最強の法則』にレギュラー掲載されている予想家を1人残らず潰して行けば、編集部も俺を相手にしない訳にはいかないだろうという考えで、木下健氏の次に北の馬券師天翔馬を攻撃。その時にはもう、信念を持って一生懸命競馬予想している予想家と勝負したいとかいう事はどうでもよくなっていた。と言うよりも、信念を持って予想している予想家など、どこを探しても見当たらなかった。「アンタが1億何千万円払戻したか何だか知らねぇが、俺様”馬券王”矢口と予想勝負しろ!出目とか何とか、俺に言わせりゃ邪道もいいトコだ。本当に凄ぇんなら、俺と予想勝負して勝ってから言え。」と挑戦状を突き付けると、「翔馬、逆立ちしても馬券王様には敵いません。」と奴なりに俺を馬鹿にした返答があった。つーかいくら俺をナメたところで、あんな適当予想じゃ予想勝負が行われたとしても確実に俺が勝っていただろう。奴がナメたつもりでほざいたセリフも実は的を得ていたと言える。奴の予想は的を外しまくっても、予想勝負をしたら負けるという事については的を得る事が出来た訳だ。俺はそんな適当野郎をそれ以上深追いする事せず、HPにて「木下健氏に辛勝後、天翔馬に挑戦状を送るも『翔馬、逆立ちしても馬券王様には敵いません。』って事で”馬券王”矢口の不戦勝、『競馬最強の法則』レギュラー予想家に”馬券王”矢口2連勝」と報告。勿論HP新規アクセスは殆ど無く、知る人ぞ知るマニアックHPの愛好者を満足させるだけだった。
次に13年間GⅠ連続的中を達成していた陽数競馬使い、駄菓子屋オヤジ東九条阿洞に接触。奴の弟子だか信者だか知らんが、あのインチキ尊師に関するHPを運営している奴にメールした。「お前の師匠はペテン師だ。13年間GⅠ連続的中なんてとても偉業とは言えねぇ、異形だぜ!妖怪バスターの俺と予想勝負させろ。」予想通り返事はない。13年間GⅠ連続的中をほざくペテン師をのさばらせる訳にはいかず、俺は連日挑発したが一切シカトされた。もうどうでもいい、「挑戦状企画第3弾駄菓子屋オヤジ東九条阿洞に挑戦状、寝ても覚めても返答無し。敵前逃亡したもうろく爺ぃに用は無ぇ。”馬券王”矢口『競馬最強の法則』レギュラー予想家3名相手に堂々の変則3連勝」とHPにて報告。もう面倒臭くなって、3予想家の親分『競馬最強の法則』に挑戦状。
「おたくに掲載されてる予想家連中は、揃いも揃ってインチキ三昧の予想家だ。俺はおたくに掲載されてる3名の予想家に予想勝負を挑み、ことごとく撃沈してやったぜ。俺こそ掲載に値する馬券師で、俺を掲載する事によっておたくの雑誌の品も上がる事だろうよ。」と送ったところ、「次回の巻頭企画に挑戦しますか?」と来た。二つ返事で参戦決定。詳細については、「『競馬最強の法則』掲載」を参照。雑誌が発売されたのは2000年8月中旬で、俺は競馬を始めて1年8ヶ月で競馬雑誌の巻頭企画において、1日12R中7R的中(的中率58.3%)させ1万円を11万8450円(回収率1184.5%)にして見せるまでになっていた。だが正直言って大した成績とは思わない。ただ日常を見せただけだ。だが雑誌発売日から、HPへの新規アクセスは激増した。俺はHP新規アクセス増加という目的のもとアグレッシヴに動く事にし、新規アクセス激増という結果をもたらした。これが俺という男の行動力だ。誰にでも出来る事ではなく、優秀な競馬予想力という裏付けのある俺だから出来た芸当だ。そこんとこは勘違いしないように。
2000年2月に生まれた「馬券生活者軍団<IK>最強の競馬予想」HPは、こうして軌道に乗り2年9ヶ月間に渡り競馬予想を発信し続けた。